社外取締役は、本来の機能からみれば、コーポレート・ガバナ
ンス制度の真ん中に位置している。
その役割は、特別なしがらみや利害関係を持たず、自らの知見、
あるいは見識に基づき中長期的な企業価値の向上を図るべく己
の意見を述べ、取締役会における重要な意思決定を、経営陣と
ともにすることだ。
経営陣の監督は、社外取締役の一部の役割にすぎない。
社外取締役の役割を果たすためには、経営戦略を把握し、重要
な意思決定のための情報を経営陣と同レベルで入手することが
求められる。
これらの情報に基づき、社外取締役は独自に判断をおこない、
迅速に意思決定することが要求される。
社外取締役に必要な能力は、総合的な経営判断能力だ、とされ
ている。
専門分野に限られた意見だけでは、その任を果たしているとは
言えない。
ところが、わが国における上場企業の社外取締役には専門家が
多いと思われるのだが、残念だが、そのデータを、私は発見で
きなかった。
私が以前から気になっていたことなのだが、社外取締役の評価
は、どのようにおこなわれているのだろうか、ということだ
った。
実際、現在のコーポレート・ガバナンス・コードは社外取締役
を評価する仕組みが欠如している、とされている。
取締役会の議論に参加しているようにみえても、単に問題点の
指摘しかしない社外取締役の存在は、取締役会の健全な議論に
貢献しているとは思えない。
証券取引所を含めて、わが国では、過去にも多くの上場に関す
る改革をおこなってきたのだが、私からみれば、どれも形式的
なものばかりに思えてならない。
また、わが国の経営者は、経営者の周りに集まる証券会社、監
査法人、東証など上場を支援していく立場の人たちによって、
形式的な要件を吹き込まれてきたように感じている。
これは私の狭い経験範囲なのだが、上場後、事業を軌道に乗せ
ることができず自ら衰退していく企業の姿を、私はみることに
なった。
事業が傾きだすと、上場時のそれぞれの関係者は、蜘蛛の子を
散らすように企業から逃げていくのをみてきた。
ソニー子会社時代にみた上場企業のプライドとその行動力は、
その後、私が経験した上場企業や上場準備企業の経営者のなか
にみることはなかった。
簡単に言えば、経営に対する姿勢がまるで違ったのだ。
野村監督の言葉ではないが『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに
不思議の負けなし』だ、と思えた。
負けるべくして負けている。
先ず、経営者の姿勢に独立自尊の気構えがない。
上場すれば上場基準に基づいていれば、上場企業の事業運営が
できていると、経営者は錯覚している。
法的な制度運営は、最低水準だ。
それで充分だとしている経営者ばかりだった。
しかも、形式的にだ。
それ以外に、経営者が、自社の経営執行のために、どのような
チェックシステムを構築するかなど、考えることもなかった。
理由は簡単だ。
経営者が、上場時の基準以上の制度はいらないと考えており、
それ以上(任意だが)の機能を検討することはない。
ところが、実際は、経営者の業務執行を毅然とチェックできる
システムを日常業務レベルで構築しているから、業務執行の妥
当性が担保されるのだが、このようなことに気づいてすらいな
い。
また、独立社外取締役には、事業計画や経営戦略などの経営情
報が届いていなければならないし、さらにわからない点があれ
ば、事前に質問し、当該担当部門の責任者からレクチャーを受
けることなどが求められる。
取締役会は予定調和の場ではない。
議論が噴出し、それに的確に答えていくことができる経営者
(代表執行役)がいるからこそ、ガバナンスが効いてくる。
しかも、取締役会には機動性も求められる。
今の時代、緊急に取締役会を開催しなければならいような事態
が発生するからだ。
そうなると、独立社外取締役は、それほど多くの兼任ができる
はずはない。
機関投資家の議決権行使基準では、兼任数が多い社外取締役は
名ばかりで形骸化している可能性があり、好ましくないという
批判がある。
経営戦略の策定や重要な意思決定では、経営陣と常に議論を重
ね、社外取締役として十分な時間を割くことができなければな
らないだろう。
もっとも、これすらも形式基準になることがあるし、実際、ど
のような議論がなされるかは企業ごとに違っているはずだから
だ。
この点でも企業のオリジナルな対応が必要になる。
いくらでも考えられることはある。
任意のチェックシステムは、法的な制度に縛られる必要性がな
いからなのだが、法的な制度は、どうしても形骸化しやすいも
のだ。
米国のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシ
ーズ(ISS)は監査に関わる社外取締役と社外監査役について、
在任期間が12年を超える場合に反対投票を推奨する基準を2月
に適用した、とある記事にあった。
米グラスルイスも26年から社外取締役と社外監査役について、
連続12年以上務めている場合、独立性がないと判断する基準を
設けた、とある。
独立性に関する基準、米国でもこの程度のなのか、と私は唖然
とした。
本当の意味でコーポレートガバナンスを構築していけるのは、
独立自尊の気概をもつ経営者の存在と法制度などの運用は当た
り前なのだが、自社の独自性のあるチェックシステムを自ら構
築し、運用することしかない。
ほとんどの経営者は、このことに気づいていない。
また、仮に必要性に気づいたとしても、そのコスト(私は投資
と考えているのだが)に足がすくむだろう。
ソニーだけは、この投資を長期に渡ってやってきていた。
だからガバナンスが効いているのだが、現場では自由な経営が
行われていた。
一見すると矛盾するよう考え方だが、そうではない。
それが理解できないのは、実践できていない企業が多いからだ。
経営能力とは、いわば経営者と現場を含めた実践力だ。