ソニー子会社のマネジメントには心底驚いた。
まず社員が言いたい放題だった。
もちろん、そのなかでやりたいことがあれば、自分で責任をと
って企画を提案することになる。
ただの言いっぱなしではない。
しかも、その成果は、見事に晒される。
チャンスがあるのだが、結果もある、責任も伴う。
私のよう一般社員でありながら課長の仕事をやらされた。
前の課長(上司は)は、別な部門へ飛ばされた。
私は次の課長がくると思ったのだが、来たのは、お前がやれの
一言。
えぇ、と絶句。
今日の日本経済新聞に『パナソニックホールディングス(HD)
が年功序列にこだわらないリーダー登用に取り組んでいる。車
載部品などを扱う事業部門で、約570人いる課長・係長職に立
候補制を導入。1日付で100人ほどが入れ替わった。
木下達夫CHRO
「思い切った改革で顧客に貢献できる組織力を身につけようと
本気で取り組んでいる」。パナソニックHDの木下達夫グループ
最高人事責任者(CHRO)は強調する。早期退職の募集でベテ
ラン社員が抜けており、若手社員の意識を高めながら組織を活
性化させる』とあった。
読むべき記事としてはおもしろいのだが、実際にやるとなると
大変だ。
組織というものは、良くも悪くもむかしからの慣習がある。
人間はすぐに変われない。
もっとも、私のような新入社員時代から比較的堅苦しい組織で
仕事をしてきた人間は、自由な社風はありがたい。
言いたい放題から、やりたい放題ができた。
社風とは長い歴史がある、と体得した。
ルールとは別に人間がつくる慣習なのだろう。
私には心地よかった。
それでも、ルールはあるのだが、企業規模と社長(東京通信工
業出身)がいたから、とくに自由度が高かったように思えた。
しかも、社員は、昭和の時代に入社した札付き(学歴などなく
現場の作業員のように感じた)のタイプが多かった。
私は、入社当初、このような人間たちに緊張した。
これまで経験したことがない雰囲気があった。
それでも、社長をはじめとして多くはないのだが、大卒の人間
が少数いた。
部長も課長も大卒ではなかったのだが、社長はまったく気にし
ていない。
多くの人間と自由闊達に話をしながら経営判断をしていた。
ソニーの厳しいルール(内部監査)はあるのだが、それさへき
ちんとできていれば、それ以外は自由だった。
こんな雰囲気は、すぐに作れるものではなく、やはりソニー創
業期、東京通信工業時代からつくられてきたものらしい。
当時の社長は、私が驚いている様子をみて、これがソニー流だ
し、俺はこれ(マネジメント)しか知らん、と話していた。
長い時間のなかで人間のなかに社風が流れているのだった。
社員も同じだ。
それぞれの社員の体のなかにソニーの社風が流れていた。
気さくに話ができたし、ときには厳しく指摘をされた。
組織や役職に関係なく、言うべきことが言える。
ただし、私が課長に抜擢されたような人事は多くはなかった。
やはり、日本企業らしく昇格試験をおこない、仕事の実績をみ
ながら、役員や部長などの評価を得て昇進する仕組みになって
いた。
違うのは、昇進したからといって、ずっとその役職を務められ
るかどうかは、当然だが、実績と他部門の責任者、あるいは社
員(部下)の評価によって決まっていた。
降職がある厳しい成果主義だった。
私の抜擢は、当時の社長が全面的に支えてくれた。
私一人でなんでもできるものではない。
抜擢人事は、それほど簡単ではない。
後ろ盾がなければ、私は簡単に仕事を進めていくことはできな
かっただろう。
仕事をしながら、常に当時の社長を思い浮かべながら、権威的
にならず、いつも謙虚に仕事をさせてもらった。
それが抜擢人事に対する当然の姿勢だ、と考えていた。
現場を大切にした。
現場のために働いた。
当時の社長は、私のこの思いを理解してくれていた、と思って
いる。
組織の構成員である人間を活躍させるためには、中小企業時代
から経営者自らが社員といっしょになって仕事をし、事業が発
展していくためのマネジメントをつくりあげながら、しかも、
経営者の独善ではなく、多くの社員と仕事に対する雰囲気を分
かち合わなければならない。
経営者のちょっとした言葉に社員が反応してくれるのは、遠い
むかしから築いてきた社風があるからだ。
私は、ソニー子会社時代に、当時の社長から体で教えてもらっ
た、と思っている。
ソニー子会社以降、このような社風を作ることができた会社を
みることはできなかった。
それほど長い時間をかけながら、生身の人間が切磋琢磨しなが
らソニー創業時代の社風はつくられてきたように感じる。
日本の中小企業には、長い時間軸のなかで社風をつくる、とい
うな考え方をもっているところはなかった。
常に儲けることばかりに追われていた。
大事なことは、儲けることも大切なのだが、儲ける行動をしな
がら会社を成長させていく社風をつくることだ。
大きな企業になっていくところには、それぞれに事業を成長さ
せていく原動力としての社風が備わっている。
この違いによって会社の独自性は生まれている。
しかし、中小企業には、私が在籍した範囲のなかだけなのだが、
これといった社風がないことが多かった。
あっても悪しき社風だった。
当たり前のように倒産した。
抜擢人事ほど中小企業は簡単にできるのだが、抜擢が、お山の
大将になることが多い。
経営者は、抜擢と同時に社員に対する実践的な教育が必要だ。
それには創業経営者自身の学びがなければ、良き社風を築くこ
とはできない。
先ず、経営者自身がいろいろなことを学んでいく姿勢からはじ
まる。