中小企業は経営者と社員が話せるところがよいのだが、実際
は、社長と気に入った社員が話をすることが多い。
これでは現場の実態は把握できない。
やはりすべての人間と話をすることが基本だ。
だが、ほとんどやれていなかった。
ある企業で退職者から、現場の実態をありのまま把握するた
めに退職面談を私が担当した。
創業社長から直接指示された。
私は聞き取った内容を可能な限り正確なドキュメントにして
社長へ渡した。
社長は、その内容から現場の責任者を読んで直接話をしてい
た。
問題が複数回続けば、その責任者を交代させていた。
問題の核心は現場にある。
この社長は、退職者から聞き取った内容を無駄にしなかった。
常に自分のこととして対応した。
会社がよくならないわけがない。
組織の問題は、だいたい人間にある。
人間を把握できるのは問題があるときだ。
問題がなければ組織運営はうまくいっている。
もっとも、企業が大きくなれば問題が放置されることが多く
なる。
問題にいちいちかまっていられないという態度だろう。
しかし、中小企業は人との関係が近く、経営者にとってこれ
ほどありがたい環境はない。
毎日でも現場で気軽に話をすることできる。
いろいろなことが聞けるだろう。
無駄に思う私的な話もあるだろうが、よく話を聞けば、事業
を成長へ導くヒントがある。
話を聞くことは体力がいる。
社長ともなれば、多くの人間と話をしなければならないから、
その体力だけでも大変だと思う。
私は部下の話もちゃんと聞けなかった。
これでは部下は成長しないし、部門の業務がうまくまわるは
ずもない。
なんとか毎週ミーティングをおこない部下の話を聞きながら
仕事を変えていった。
もっとも、部下が話をしてくれれば、後は部下に任せたので、
部下が勝手に仕事をしてくれて、そのうえ自分で育ってくれ
た。
部門の仕事もうまくまわっていくようになった。
私はいらなくなった。
退職だ。
簡単だ。
社長は、こうはいかない。
事業を成長させていくために聞く力が必要だ。
聞くということは、人間に関心をもつことだ。
私のような一匹オオカミでも経営者に関心をもってもらえる
と嬉しかった。
よく話をさせてもらった。
なんだか自然に仕事に夢中になった。
多分だが、経営者が私に関心をもってくれたことで、自分な
りに一生懸命努力しようとしたのだろう。
私は、経営者や上司の聞く力や自分に関心をもってもらうこ
とで、自分が変われた。
話を聞くことは、経営者が時間を取られるがお金がかかるも
のではない。
話を聞くく金儲け と考える経営者には無駄にしか思えない
だろう。
だが、これができる経営者は、人間をより知ることで事業を
把握し、問題点を改善し、人間の能力を発揮させることがで
きる。
経営者にとって聞くことは、非常にむずかしいことなのだが、
私が知る限り、これができていた経営者が存在する企業だけ
が発展した。
経営には、むずかしいことにも共通項があるのだが、私が知
る経営者は、シンプルに容易く社員と会話していた。
いつも自然体だ。
無理がないから長く続けていくことができるのだろう。
その姿勢に、私は、頭が下がった。

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