融資の常道を逸したことがおこなわれているようだ。スタート
アップ企業を増やすことが目的らしいが、有形資産を持たない
企業に事業の将来性を評価した融資を提供して、日本経済を成
長させると意気込む。
井藤英樹金融庁長官(退任)が、今年に入って全国銀行協会、
全国地方銀行協会などの会合で、企業価値担保融資を前向きに
おこなうよう銀行にハッパをかけていたようだ。
中小企業やスタートアップにはありがたい融資だが、所詮、中
身がない事業は、早晩不良債権化するのが落ちだ。
また、スタートアップだからといって簡単に融資を得られる保
証はない。このような融資を当てにした経営計画では、行き詰
まることは目にみえている。
この国は、創業することはできるが、いかんせん創造的な事業
をおこなう文化がそもそもない。いろいろな制度が硬直化して
いる。どれも官僚まかせの付け焼刃的施策だ。
日本のスタートアップ企業は、東京証券取引所グロース市場に
上場するや業績が悪化し、株価が上場初値を大きく割り込むケ
ースが多い。グロース市場は死屍累々だ。これこれで当然だ。
スタートアップとはそういうものだ。株主やベンチャーキャピ
タルには、事業を見抜く目がいる。
銀行の融資とは、原則国民から預かったお金だ。博打をするお
金ではない。スタートアップに銀行が安易に融資することがあ
ってはならないお金だ。企業価値担保融資は。貸倒引当金計上
の大波をかぶっているらしい。
ベンチャーを育てる環境がない国だ。ベンチャーが育つわけが
ない。とくにベンチャーキャピタルの問題が多く、本気で起業
するなら米国だ。当然、事業の評価も厳しく選別される。
結局、競争社会という前提がなければならない。事業をする側、
出資する側の双方が鍛えられる環境がある。日本の場合、この
環境がないためにどんぐりの背比べ状態だ。ベンチャーやスタ
ートアップともに立ち枯れるのたり前だ。そんな環境を融資で
乗り越えられるわけがない。言葉はよくないが、上場する前に
賭場で張れる人間たちに金を出させる仕組みが必要だ。金持ち
に合法的に博打を打ってもらう仕組みだ。
ソニーのむかしを知る人に話を聞いたことがある。経理のおば
ちゃんが、出資をお願いするためにあらゆる企業をまわった、
と。
その企業はそれほど有名ではなかったが、私がいた当時、ソニ
ーの大株主になっていた。スタートアップとは、なにもないと
ころから有を生み出すことだ。全員で覚悟を決めてやる以外に
ない。銀行融資などもってのほかだ。事業を理解してもらい出
資してもらう以外に選択肢はない。