昨日、あるアンケートについて書かれた次の記事を読んでいた。
今もバックオフィス業務で特定の人しかわからない業務が六割
もある、と記事に書いてあった。
約8割が生成AIをバックオフィス業務で活用している 今後「
拡大予定」は約9割──エイトレッド調査
私がやってきた仕事は、会社内の業務、とくにバックオフィス
系の業務だが、誰にでもできる仕組みを作ることだった。
いわゆる標準化というやつだ。
私の時代には、特定の人にしかわからない業務が結構あった。
中身はたいしたことないのだが、その人に聞かなければわから
ないというものだ。私は、そもそも人に仕事が張り付いている
こと自体に納得がいかない。
システムを導入して業務を標準化し、特定の人にしかわからな
い業務を破壊することを目指していた。
特定の人に話を聞きにいくこともあまりしない。
だいたいもったいつけて肝心な業務内容は話さないからだ。
聞くだけ無駄だ。
多くの社員から聞き取りをしながら業務のボトルネックになっ
ている部分を知らべて問題点を抽出し、標準化のためのシステ
ムを検討しながら導入する。
業務上問題となっている部分は吹き飛んでいく。
特定のことをやっている人の仕事も吹き飛ぶ。
その後、特定の仕事をやっていた社員には異動していただく。
企業は成長していた、働く場所はいくらでもあった。
私には特定の人にしかわからない業務ということ自体がナンセ
ンスだ。人に業務がついているのではない。
どのような人でも同じ業務がおこなえるようにするのだ。
特定の人にしかできない業務というものは、そのような人間を
つくってきた経営者が悪いと考えてきた。
だが、このようなケースは中小企業ほど多かった。
世の中を知らないのだ。
標準化の仕組みを理解していない。
だからシステム導入やAIの活用が進まない。
本来、管理系の業務ほど標準化しやすい。
標準化できない業務は、労務くらいだろう。
相手が人間だからだ。
ところが中小企業では会計システムくらいはあるが、あとは、
Excelが活躍する。その人しかわからないフォーマットがいく
つもあった。その人が退職すると、どうにもならない。
それでもその人が在籍していたときは、仕事ができるというこ
とで評価は高かったようだ。
あるとき、すでに売上は80億円くらいになっており、株式公開
を目指すという企業があった。
当時、私は株式公開をするというのでERPシステムの導入を検
討していた。だが、この企業の創業経営者は、株式公開を金集
めの道具にしていた。
取引先や従業員に株を買わせていた。
私は、この創業経営者は株式公開などしないと判断して、この
会社の株を購入しなかった。
正解だった。
売上、利益とも減り続けている。
80億円時代にシステム投資をおこなっておかなければ、次のス
テージへいけない状態だったが、創業経営者に意見すると、い
つものことだが解雇された。
システム導入を検討していたが聞く耳をもたない創業経営者だ
った。実態は、上場どころか、運転資金に窮していた。
現在、代表取締役を退任し、別な方が社長に就いている。
この理由も私にはなんとなくわかる。
なかなか逃げ足がはやい。
社員も少なくなり、先が見えてきた。
私は、もっとはやく事業が行き詰まると思っていたのだが、な
かなかしぶとかった。
創業経営者は、運転資金を得る力量があったようだ。
書けないが、そこにもちゃんとした理由がある。
この会社、創業経営者にしかわからない業務があった。
これでは株式公開どころではない。
株式公開するとは、バックオフィス系の業務を標準化するとい
うことだ。企業の勝敗を決するものは、企業が生み出す製品、
あるいはサービスだ。
中小企業ほど、わけがわからい業務が多い。
その仕事にはまった人だけが厚遇されるという不思議なところ
だ。このような社員が、どの企業でも驚くような賃金をもらっ
ていた。倒産した会社で、このような厚遇を受けていた人たち
は、その後、どうなったのだろう。
他社の採用で今までもらっていた賃金の話をしただけで不採用
になるだろう。その人にしかわからない業務が好待遇になるの
が中小企業だ。
今だにアンケートの六割を占めることに、私は心底驚いた。
私の経験は20年近く前の話だが、中小企業だけではないのかも
わからないが、いつまでかわりばえしないことが続いていくだ
ろうか、と思ってしまった。
人間は進歩もできるが、現状維持が好きだ。
なんともため息がでてきた。
この国では、システムやAIを使いこなせる素地がないようだ。
企業というところは、とくにバックオフィス系の仕事では標準
化することで、無駄や無理を省き、本来必要なところへ人やお
金を振り向けていかなくてはならない。
投資こそが、事業を成長させる源だ。
バックオフィス系の仕事は、必要最低限でよい。
人に代わってシステムやAIが業務をうまく補完してくれればよ
い。バックオフィス系の仕事は、できて当たり前であり、付加
価値を生むことはない。
付加価値を生み出すのは現場であり、そこにいる人たちだ。
私は、そのような人たちをサポートするだけだった。
空気を読まず特定の人たちを気をすることもなく、黙々と仕事
をしてきた。だから賞賛もご褒美もない。
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