キャリアは社員に限られたイメージでとらえられているよう
だが、創業経営者には、とくにキャリアを意識しておく必要
がある。理由も簡単だ。お山の大将だからだ。
本来、人間のキャリアには、青年期、成年期、壮年期、老年
期があると言われている。もっともこれ以外にもあるが、会
社を経営する時期でみればこのように分類すればよいだろう。
青年期の発達課題はアイデンティティの確立である、とされ
ているが、創業者はまさにアイデンティティが確立している
存在だ。他の人と違う自分らしさや、自分が何者なのかとい
う概念であるが、創業者は見事に体現している。学生のよう
に自己省察をする必要もないだろう。
成年期の課題は、親密性の獲得である、とされている。自社
の集団や従業員と親密な関係をつくり上げていくことである
が、キャリア形成の面からみれば、本来、組織や従業員に対
してある程度距離を置き、親密になりすぎず、かといって孤
立しないほどほどの関係にすることが必要なのだが、この点
で創業者と創業を支えた人間との関係は深くなりすぎていた。
このことで事業に問題が発生する。とくに創業経営者に注意
と配慮が求められるところだ。
創業経営者でもキャリア形成が必要なのだが、なにせお山の
大将だ。自己を見つめる時間がないだろうが、これができな
いことで事業に重大な問題を引き起すことになる。キャリア
形成は創業者ほど自己統制ができない分、ゆがんだ自己を作
ることになりやすい。創業経営者ほどいろいろな学びが必要
になる。