中小企業における雇用形態は、終身雇用ではない。人の入れ替
わりがはやく、とても終身雇用などできない。経営者がくびを
言い渡すこともあるが、多くは社員自らが辞めていく。私のよ
うに、次々と会社を変わる人たちがいる。いろいろな事情があ
るのだろう。経営者のくびの一言は感情的なことや社内の力学
によることだった。あくまで私が経験した範囲だ。
いずれにしてもジョブ型雇用だ。やってもらうことが明確だ。
これこれで問題を引き起こす。協力しながら物事をなし遂げる
という姿勢があまりなく、社内は殺伐としていた。社員間のゆ
るやかな交流も少ない。要は、個人が徹底されていた。業績が
よい企業であれば、この状態でも問題はないのだが、そのよう
な中小企業はなかなか成長しなくなっていた。
中小企業こそ、本来であれば終身雇用を目指すべきだ。社会の
発展とは、いわゆる資本主義制度の発展は、貨幣の発達によっ
て個人が自由を得られるようになることに特徴がある。大手企
業では、この特徴を生かしたマネジメントが進む。とくに今の
ように競争が激しい社会では、なおのこと個人の自由や独立性
が言われるようになる。その点でジョブ型雇用はうってつけな
のだ。
他方、優秀な個人ばかりが社会にいるのではない。このような
時代に放り込まれて彷徨う人間も多くいる。企業もちょっとし
た社会だ。こんな個人を育成しなが事業を進めていかなければ
中小企業は、そもそも存立基盤を失いやすい。私がいた昭和の
日本はべたな人間関係が存在する時代だったが、多くの人たち
は文句を言いながらも仕事を楽しんでいた。事業が確実に成長
していたからだ。
私はこんな社会が苦手だったが、多くの人たちはお互いに協力
し努力を重ねていた。今の時代の中小企業は、人による努力が
必要な労働集約的な仕事が多く、そもそも安定性が求められる。
実際には、その反対で不安定なために終身雇用ができていなか
った。経営者の姿勢にも問題があった。人などいつでも採用で
きると、ほざいていた。今やそんな時代は過ぎ去った。中小企
業が終身雇用せざるを得ない時代がきている。
終身雇用を考える場合、賃金だけではなく、いろいろな手段が
とれることだ。むかし大手企業がやっていたことをまねるだけ
でできる。要は人を大切していく経営だ。少々過度に人を大切
にすることだ。そしてもっとも大事なことは、雇用した人たち
が協力しながら仕事ができる環境を作ることだ。AIに振り回さ
れている大手企業をよそ目に、人を中心とした経営基盤を構築
することだ。中小企業の経営者が成長できる社員の存在からだ。