企業の仕事は、どのような企業であっても厳しい現実があるも
のだ。のんびりとやっていれば、他社に出し抜かれることにな
る。普通の企業では、やはりスピードが勝負なのだ。なかには、
優れた製品やサービスをもつことで顧客から適宜受注が入る会
社もあるだろうが、それでも次の開発に向けて社内には、相応
な体制が敷かれているだろう。
要は、のんびりと仕事ができる会社はないということだ。だっ
たらはじめから、企業の現実を知らしめておこうというのが、
リアル重視の求人だ。
これには効果がある。ひとつはワクチン効果だ。 ワクチンは、
病原体の免疫を持たない人に対してワクチンを打つことで免疫
をつくることを目指している。厳しい現実を開示することは、
ワクチン接種と同じ効果が採用でも現れることになる。事前に
ネガティブな情報を開示することで免疫効果を狙っている。
ある企業は、給料水準は高いが、仕事はきつい。あるいは仕事
の評価におけるポイントなどハードな面を開示しておく。入社
する前に、現実を明確にすることで期待の抑制と現実化を、応
募者の体にもたせておくことができる。
次に、自己選択効果とマッチング効果だが、事前にリアルな情
報を伝えれば、当然ミスマッチが少なくなる。ミスマッチが大
きいほど会社をすぐに辞めてしまう。事前に厳しい環境になじ
みにくい人たちを抑制しておくことが可能だ。結果として自己
選択 効果が生まれる。厳しい情報でも入社を希望する人は、期
待のマッチング効果が、入社前から起こることになる。
最後になるが、企業が厳しい情報を提供すれば、その企業の姿
勢が誠実で実直だと、求職者は考える。その結果、企業をポジ
ティブに評価してもらうことも可能となる。さらに、このよう
な経過をたどって入社した人は、入社後、企業に対して高いコ
ミットメントをもつようになる、と言われている。
募集段階の厳しい情報提供は、自己選択が起こり、母集団が減
ことになるが、特徴をもっている企業にとって損にはならない。
厳しい現実を提示すれば、興味のない人には企業への入社意欲
を下げることで応募者を減らすことつながる。他方、期待のイ
ンフレーションを抑えるので、残った人たちの多くは現実的な
期待を持っていた。
もっとも、現実はこのようにうまくは運ばない。私は誠実に話
したつもりだが、多くの退職者を出した。それほど現実が厳し
い仕事もある。中小企業の採用活動には、これだというものが
ない。やはり、常に企業のステージ応じた採用活動を考えてお
かなかればならない。採用活動にも自社の視点とステージごと
の対応があるものだ、と私は体得した。理屈と現実の違いだ。