現代社会は、情報技術 (IT)の恩恵を享受し、リスクを考慮し
た確率論的な意思決定の手法を活用しながら、人間がもつ情報
の不完全性や不確実性といった限界を克服しようしている。し
かも、現在ではAIが台頭し、さらに合理的な決定ができるだろ
うとされている。一部には、AI間の能力格差がでてくるとも言
われている。どこまでも不確実性の競争は続くだろう。
会社における経営環境には、いろいろな要素が複雑に絡み合い、
状況は刻々と変化する。不確実性と複雑性が高まることはあっ
ても低くなることは、もうないだろうと思われる。経営におけ
る投資などの意思決定は想像以上にむずかしくなってくるのだ
ろう。
利益と損失の判断は、人間が経営をおこなう以上、合理的に割
り切れるものではなく、学者の言葉を借りれば、人間の認知に
よるバイアスの影響を大きく受けており、いくつもの不合理な
意思決定をすることがある、と言われている。
私は、AI時代だと叫ばれているが、この時代にあっても、人
間の意思決定は重要になるだろう、と考えている。そうでなけ
れば、AI任せの意思決定をすればよいだけだ。私は、AIに
過剰な期待をしていないので、AIを活用する主体は、あくま
で人間になる、と考えている。
ハーバード大学のポール・ローレンスとジェイ・ローシュによ
るコンティンジェンシー (条件適応 )理論では、組織が直面
する不確実性に対する適応のあり方が示された。
人件費、グローバルな競争、マーケットにおける消費者の嗜好、
AIなどを活用した情報競争、各国政府による規制といった企業
の外部環境が、安定的で予測可能であれば 、いわば不確実性が
低い環境では、合理的な計画や画一的な組織、いわゆる高度成
長期の日本のような組織構成のほうが適応しやすいだろう。他
方、経営における外部環境が不安定で予測不能であれば (不確
実性が高い場合)、経営環境の変化に対応できる柔軟な組織構
造と多くの人間の視野を通した分散された意思決定が求められ
てくるだろう、と思われる。
いずれにしても、AIが活用されるのは、あくまで分散された環
境における情報を把握するためであり、最終的な意思決定は、
あくまで人間がおこなうことになるだろう、と信じている。
むしろの人間の意思決定によって、経営の巧緻は決まってくる
のではないだろうか。