大手企業に入社すれば、OJTなどの相応な研修がそろっており、
社員を育成する体制が構築されていることが多いだろう。
むしろ、そのようななかにあってソニー子会社は立上げ時期だ
ったこともあり、まともな研修制度などなかった。ほとんどの
場合、現場でいきなり仕事だった。もっとも、採用は経験者ば
かりだから、入社を希望する人たちには、私が現場の現状を丁
寧に説明していた。大きな問題は起きなかった。
ソニー子会社時代、属人的な要素が少なく、仕事をして、その
後、自分のプライベートを大切にする人にとって給与や福利厚
生、あるいは休暇制度はソニーと同じだったので、よい環境だ
ったと思っている。もちろん、なかには退職していく方はいた
が、年々定着率はよくなっていった。
ソニーの特徴かどうかわからいが、この会社のよいところは、
属人性が極めて低いことだった。私は、仕事に夢中になってい
たので自分から属人的になった。未経験の仕事を覚えるためだ
った。営業の経験が生きた。営業は、先ず人との関係からはじ
めるからだ。属人的な関係が嫌いな私が、属人的な関係に助け
てもらっていた。
未経験の仕事を覚えるとは、まさに必死だった。営業時代、ソ
ニー子会社時代も同じだった。人に教わり、自分で経験しなが
ら自分の仕事能力を確立していく以外にない。管理部門時代は、
自分で費用だしてセミナーなどにもしばしば通った。会社とい
うところは、学ぶ人間には属人性が必要になる。優秀な人間を
探しだしてへばりついていた。
今、思えば相手の方には迷惑な話だっただろう。中小企業は、
ソニー子会社時代と似たところがあった。私が経験した中小企
業は、比較的ドライな関係の会社が多かった。仕事が終われば、
この時代、多くの学びは必要なかったので、さっさと帰宅して
いた。中小企業のドライな社会の問題は、仕事においても関係
性が薄く、事業を成長発展させていくための人間関係まで希薄
なことだった。事業を成長させていくためには、組織としての
仕組みと同時に、必要に応じて人間同士の適切な会話が成り立
つことが求められるが、このような会話がうまく成立しないほ
どドライな社会だった。
中小企業だけではないのだが、このような関係しかもてない会
社は成長していかない。むしろ不信がうずまいていた。ドライ
な関係でよいのだが、社員同士が必要に応じて自然体で会話で
きる環境が必要になる。この会話ができるかどうかという違い
が、業績に大きな差を生み出してゆく。ソニー子会社と中小企
業の差は、まさにこの差だった。
むずかしいことではない。経営者や管理職の姿勢ひとつで変え
ていくことができるからだ。人間は、本来自分で学びながら成
長していくものだ。そのような環境をうまく作りだせばよい。
お金もかからない。このことを理解できていない経営者や管理
職が多いだけだ。