ソニーというところは、たとえ子会社であってもすぐに物事
を動かします。ある日、夜間の作業が発生しました。ソニー
本体と取引があった建設会社へ発注しました。急ぎの上に真
夜中の作業です。私はその作業に立ち会っていましたが、本
当に恐縮していたので、作業を担当していた方に夜間作業を
わびたことがあります。
担当者の方は、ソニーさんの仕事は長野県の時代(ソニーの
前身)から建設会社の創業者と井深さんとの長いお付き合い
がベースです、と私に話してくれました。
ソニーさんの仕事は、急ぎ仕事でも、必ず見積書通りの契約
金額を支払ってくるので安心して仕事ができます、と言われ
た。
私は驚いて聞き返しました。他社では、見積書通りの金額が
支払われないことがあるのですか、と。しょっちゅうです、
と建設会社の担当者が話をされました。
私は、なにが言いたいのか。
誠実に経営していくことには、実態が伴わなければならない、
と言いたいのです。
ソニー子会社の社長は、社員とのコミュニケーションを大切
にしていました。経営トップが一方的に自分の考えを押し付
けることがありませんでした。それをすれば、現場が誠実に
仕事をすることの意味を自分の頭で考える機会を奪ってしま
うからでしょう。
誠実さがある経営とは、経営者自身の言葉や行動のなかに存
在しているものです。経営者が誠実な言葉を発し行動してい
れば、組織の全階層へ経営者の姿勢はコピーされていきます。
そこに、お仕着せの経営スタイルはなく、従業員一人ひとり
が、誠実に行動するようなっていきます。
約束した通り工事代金を払うことは、当たり前のことなので
すが、経営者に誠実さを欠く言動があれば、社員も同様な行
動をするようになるものです。本来、約束した工事代金が支
払われないなどあってはならいのですが、企業という社会は、
とりわけ経営者に誠実さが失われていれば、社内に在籍して
いる人間の誠実さは失われていくものです。
ソニーが世界的な企業になったの偶然ではないでしょう。