組織というところは、人間が作っている。当たり前なのだが、
毎年好業績を出している企業には、必ず成功体験が積みあがる。
良いことなのだが、グレーゾーンで成果を出し続けている場合、
それが成功体験として積みあがる。ところが、例えば、株式公
開などで、この成功体験を否定していかなければならないよう
なとき、組織のなかの人間は、抵抗するようになる。
人間というものは、成功体験を拠り所に生きているものだ。だ
からこそ、人間というものは、自分の成功体験を否定すること
に強い抵抗を感じる。私でもわかることなのだが、私も組織や
他者から承認を得ていきながら、ビジネス上のなんらかの成功
体験を経るこで、ビジネスパーソンとして自信をもつことがで
きた。いわば成功体験とは心の拠り所であり、キャリアアンカ
ーだ。
これを否定されたり、手放すようなことになればかなり大きな
精神的なダメージを伴うことになる。株式公開のための組織変
革は、多くの場合、この作業であるホワイトゾーンへの移行に
対して、社内にいる人間の強い抵抗を伴うことが多かった。埒
が明かない場合、人事権を行使することになった。
社内には軋轢が残るが、この決断ができ、実行することができ
る創業経営者がいる企業だけが成長していった。このことは、
ステージごとに、いわば会社の規模に応じて実行することにな
るだろう。気が遠くなる作業だったはずだ。
ソニーが成長して世界的な企業になった背景には、このような
実態があっただろう。私が知るオーナー企業の経営者の姿から
は、これらの一部をみせてもらっただけだ。
企業の成長とは、修羅場をくぐる経営者の胆力が試されていた。