ソニー子会社時代の仕事は、計画と実行の繰り返しだった。
だが、計画3割、実行7割くらいだっただろう。
常に実行していくなかで計画の検証をしていた。
当たり前のことなのだが計画が完全なことなどありあえない。
計画を精緻につくることを念頭においている企業では、たぶん
だが、延々と実行できない状態が続くのだろう。
適応戦略とは、そもそもに戦略と戦術があり、どんなに優秀な
計画でも現場へ出た途端、現実に直面し、実行段階で現場で適
宜修正しながら実行していくことが求められる。
至極当たり前のことだ。
適応戦略に秩序のようなものはない。
秩序があったとすれば、社会環境と計画(誰でも作れる)のバ
ランス取れていた時代が存在していただけだろう。
『クラウゼヴィッツ「戦争論」から経営管理を考えてみる』
も参照してください。
わが国が高度経済成長をしていた時代には、ある程度の秩序が
あったのかもわからない。
それでも私は、その秩序を懐疑的にみていた。
まさに戦略や計画なき時代であり、横並び経営の時代だった。
誰でも経営ができた時代ともいえるだろう。
ある本に書いてあったが『スタンフォード大学教授のキャスリ
ーン・ M ・アイゼンハートとべナム・ N ・タブリージが、米
国、欧州、アジアのコンピューターメーカ— 36社による 72の
製品開発プロジェクトに関する調査を行ったところ、イノベー
ティブなプロダクトやサービスを生み出すことに成功したチー
ムほど、計画段階にかける時間が少なく、実行段階にかける時
間が長い傾向があることが判明しています。私たちは一般に、
事前の計画が、さまざまな可能性について仔細に考慮され、綿
密で詳細なものであればあるほど、プロジェクトはスムーズに
進むと考えてしまいがちですが、実証研究の結果はその真逆で、
事前の計画に時間を費やせば費やすほどプロジェクトの進行は
遅くなり、プロダクトやサービスの競争力も低下するという結
果が出ているのです。
成功したプロジェクトチームは、仮説に基づいて大まかな計画
を一気に作った上で、プロジェクトの進行に従って明らかにな
っていく仮説の検証結果に従って、その場その場で新しい計画
を策定し、それに乗り換えていったのです。言うなれば、プロ
ジェクトの実行過程全体にプロジェクトの計画と修正を溶かし
込んでいるのです。
当初想定した仮説が間違っていることは、長期にわたるプロジ
ェクトでは往々にして起こりうることです。思っていたよりも
コストがかかる、想定していたほど顧客から支持されない、競
合企業が似たようなポジションのサービスを打ち出してきたこ
のようなことがさまざまに起こるからこそ、計画と実行をない
混ぜにした即興型チームの方が、市場での成功率が高かったの
です』とあった。
ソニー子会社時代の仕事は、まさにこのようなことを繰り返し
た。
計画を作れば、すぐに実行だ。
途中のプロセスに問題がでてくれば、打ち合わせをおこない修
正し、追加投資が必要であれば可否を検討し、OKがでればすぐ
に修正内容を実行していった。
多くのメンバーが、このような計画と実行を繰り返しをおこな
っていた。
計画のすべてが成功するわけではない。
なかには途中で中止した計画も少なからずある。
要は、どんな計画でも現場と現実のなかで揉まれてはじめて計
画内容の可能性がわかるというものだ。
また、厳しいことだが、精度が高い計画を作ることができ、実
行力がある人間が明確になる。
適応戦略は、人材の能力、とくに管理職やプロジェクトリーダ
ーをふるいにかける。
企業が成長するには、いかに変化する現実に適応できるかが問
われるが、それは人間自身が問われることでもある。
適応戦力を理解していない経営者が率いる企業は、当然だが、
秩序が変わってくれば現実社会と遊離し、企業は衰退していく
ことになる。
現場段階で動けなくなるからだ。
今、いたるところでこのような現実に直面しているのではない
だろうか。
企業であれ、人間であれ、適者生存が明確になるだろう。
私たちは、それを他人ごととしてみてはならない。
常に自分の問題なのだ。